東京地方裁判所 昭和43年(ワ)5450号 判決 1969年7月16日
原告
浦田藤松
外一〇名
代理人
浦田数利
外一名
被告
東都交通株式会社
代理人
三善勝哉
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一、請求の趣旨
一、被告は原告浦田藤松に対し金一一一万四、八二五円、同浦田護に対し金一〇六万八、七三三円、同山田キミエ、同古賀ヤエノ、同浦田宮子、同浦田富士暁、同小林美智子、同浦田光信、同諸義子、同山内菅子、同古賀季子(以下原告らの姓を略する)に対し各々金二九万九七二三円、および同藤松につき内金一〇一万三、四七八円、その他の原告の各々内金二七万二、四七六円につき、それぞれ訴状送達の日の翌日である昭和四三年五月三一日から、同藤松の内金一〇万一、三四七円、同護の内金七九万六、二五七円、その他の原告の各々内金二万七、二四七円につき本判決言渡の日の翌日から、それぞれ支払済みにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。
二、訴訟費用は被告の負担とする。との判決並びに仮執行の宣言を求める。
第二、請求の趣旨に対する答弁
主文同旨の判決を求める。
第三、請求の原因
一、(事故の発生)
訴外浦田ウタ(以下ウタという)は、次の交通事故によつて死亡した。
(一) 発生時 昭和四三年二月七日午後一〇時二〇分頃
(二) 発生地 東京都世田谷区松原三丁目四一番一八号先路上
(三) 加害車 営業用普通乗用車(練馬5き三二―八七号 以下被告車という)
運転者 訴外 緒形和夫(以下緒形という)
(四) 被害者 訴外 ウタ(歩行中)
(五) 態様 ウタが右道路を横断歩行中高井戸方面から新宿方面に向つて進行してきた被告車に激突された。
(六) 被害者訴外ウタは頭蓋内損傷および骨盤大腿の骨折により同月九日午前七時二〇分頃死亡した。
二、(責任原因)
被告は次の理由により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。
(一) 被告は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。
三、損害
(一) ウタの得べかりし利益
ウタは事故当時六四才の主婦で、日常の家事労働に従事していたものであるところ、同人の右家事労働は、毎月二万円程度の収入に該当するものと考える。
従つて、ウタの平均余命14.82年のうち就労可能年数を6.2年間とし、同人は生活費につき毎月一万円を要したものと考えられるので、その間の得べかりし利益七四万四、〇〇〇円からホフマン式計算により年五分の中間利息を控除して同人の死亡時における現価を求めると七〇万四、八八〇円となり、これがウタの失つた損害である。
(二) 原告らの相続
原告藤松はウタの夫、その他の原告一〇名はウタの子であるところ、ウタの死亡により右逸失利益の損害金につき、原告藤松は、その三分の一(二三万四、九六〇円)、その他の原告は各一五分の一(四万六、九九二円)宛相続により承継した。
(三) 原告らの慰藉料
原告らはウタの死亡により多大の精神的苦痛を蒙つたが、右苦痛に対する慰藉料として、原告藤松(夫)一五〇万円、その他の原告は各四〇万円が相当である。
(四) 葬式費用等
(イ) 原告藤松は、ウタの葬式等のためつぎのような出捐をした。
1 葬式費用、雑費 五万五二〇円
2 交通費 五七、八〇〇円
3 病院その他えの御礼
一万三、〇〇〇円
4 その他雑費 二万九、七七八円
合計 一五万一、〇九八円
(ロ) 原告護は、ウタの初盆費用として、
1 交通費 金九万円(相続人九名×往復交通費各一万円)
2 その他の費用 金一〇万円(初盆費用)
以上合計一九万円を出捐した。
ウタは、福岡県田川市に生れ昭和三〇年頃まで右同所で生活していた。従つて同人の親戚、知人はほとんど田川市に在住しており、初盆は出生地で行うのが同地方の慣例であり、親族間においても田川市で行うべきとの協議の結果右同所で行つたものである。ところが、原告富士暁以外は東京または大阪に在住しているため、原告各夫婦の交通費を同護が出費したものである。なお現実には交通費として一八名につき、各一万円宛一八万円出費したのであるが、内相続人は九名であるから、右金額を請求しているものである。
(ハ) 原告護は、ウタの墓碑建設費用として、
合計金五〇万九、一〇〇円(六聖地墓地使用料七万八、〇〇〇円、一ケ年間の管理費用一、一〇〇円+墓碑建設費用四三万円)を左記のとおり支払い、または支払うことになつている。
記
同年五月一〇日 金九万円
同年七月末日 金三四万円(予定)
原告藤松の家族では、同ウタが最初の死亡者であるため、現在まで同家の墓碑はなかつた。
墓碑建設予定地として、田川市も検討したが、同家の家族はほとんど東京在住であり、祭祀は長男護が主宰することに決定したため、東京にしたものである。右費用につき浦田家の右事情および同ウタの社会的地位等を考慮するとき、右金額は社会の習俗上その霊をとむらうに必要かつ、相当と考えられる費用である。
(五) 以上のとおり原告藤松の損害は、金一八八万六、〇五八円、同護のそれは金一一四万六、〇九二円、その他の原告のそれは各金四四万六、九九二円であるところ、原告らは自動車損害賠償責任強制保険金二六一万七、七四〇円を受領し、原告藤松は、その三分の一たる金八七万二、五八〇円を、その他の原告は、その三分の二の一〇分の一たる各金一七万四、五一六円を、それぞれ損害に充当したので、結局原告藤松の損害残額は金一〇一万三、四七八円、同護のそれは金九七万一、五七六円、その他の原告のそれは各金二七万二、四七六円である。
(六) しかして被告は任意に履行に応じないので、原告代理人に対し訴訟委任をしたものである。
その際着手金、成功報酬を含め、日本弁護士連合会報酬規定による報酬の範囲内たる一割を支払う旨約束した。
よつて報酬額として原告らが出費することになる費用額を算出すると、
原告藤松は一〇万一、三四七円、
同護は金九万七、一五七円、その他の原告は各金二万七、二四七円となる。
従つて、原告らは、それぞれ右各金員につき同額の損害を被ることになる。
(七) 従つて、被告に対し、原告藤松は以上の合計金一一一万四、八二五円の、同護は金一〇六万八、七三三円の、それ以外の原告は各金二九万九、七二三円のそれぞれ損害賠償請求権を有するところ、右各金員および原告藤松の損害のうち金一〇一万三、四七八円、それ以外の原告の損害のうち各金二七万二、四七六円につき訴状送達の日の翌日である昭和四三年五月三一日から、同藤松のうち金一〇万一、三四七円(弁護料)、同護のうち金七九万六、二五七円(初盆,墓碑建設費用合計69万9,100円+弁護料9万7,157円)
その他の原告の損害のうち各金二万七、二四七円(弁護料につき、本裁判言渡の日の翌日から、それぞれ支払い済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第四 被告の事実主張
一、請求原因事実の認否
第一項のうち(一)ないし(五)は認める。(六)のうち傷害の部位および死因は不知。
第二項(一)は認める。
第三項(一)は不知。ウタの家事労働の対価としての逸失利益算定は争う。(二)は不知。(三)は不知。慰藉料額は争う。(四)は不知。(五)のうち原告が二六一万七、七四〇円受領した事実は認める。(六)は不知。
二、抗弁
(一) 過失相殺
(イ) 本件事故現場
1 本件事故現場は、歩車道の区別がある幅員16.8メートル(甲州街道センターラインが設置され、片側三車線)の道路と、幅員4.2メートルの道路とが丁字路交差をしている右交差点内で、上り路線(下高井戸方面より新宿方面に向う)の第二車線上である。
2 而して第一、右交差点には信号機の設置はなく、第二、下高井戸方面より新宿方面に向つて右交差点右側新宿寄り隅および左側下高井戸寄り隅の各地点には歩行者の横断を禁止する旨の表示が各設置され、第三、交差点右側手隅より下高井戸方面へ89.1メートルの地点には横断歩行者の為の陸橋が設置されている。
3 衝突地点は、下高井戸方面より新宿方面に向つて左側歩道隅より直線で3.15メートル、左側手前歩道隅に設置された電柱より直線で5.15メートルおよび右側新宿寄り歩道隅に設置された電柱より直線で10.70メートルの地点である。
路面状況は直線でコンクリート舗装され平たんで且つ乾燥していた。
(ロ) 訴外緒形は被告車を運転して時速約六〇キロメートルで下高井戸方面より新宿方面に向つて第二車線上を走行した。
而して事故現場より約八九メートル手前(被告車進行方向にとつて)には丁字路交差点があり、同所には信号機が設置され(以下第一信号と略称)、同所よりさらに約八〇〇メートル手前の地点にも信号機が設置され(以下第二信号と略称)ているところ、被告車は第二信号が停止を表示していたので、同所で信号待ちをし、いわゆる集団車を形成して右集団車の先頭車となつたが、事故発生時は夜間であつたため、他の車両はかなりの速度で走行し、そのため被告車はおくれて、後続の第二集団車の先頭車となつて本件事故現場に向つた。
(ハ) ウタ外二名は本件事故現場附近にある泉商会からの帰宅途中で、車のとぎれを利用して被告車進行方向にとつて右から左へ本件事故現場を横断しようとして、ほぼ中央線附近まで渡つたが、同所から小走りに横断しようとして内一名は渡りおわつたところ、残つたウタと他の一名(老婆)は渡りきれず、右ウタは被告車左前部(左フロントフェンダー)に衝突したものである。
(ニ) ウタの過失
1 本件事故現場は右のとおり第一、歩行者の横断は禁止されており(道路交通法第一三条二項)その旨の表示も二個所に各設置され、第二、附近には歩行者のための道路横断陸橋が設置されているから、歩行者は右の陸橋によつて横断すべき義務があり(同法第一二条二項)、特に本件事故現場は甲州街道であつて交通量の多いことから歩行者の安全を図るために特に右の横断陸橋、および横断禁止表示等の諸設備がなされているのであるから、歩行者も又、自らの生命身体の安全には注意すべきであつて、道路交通法上の諸義務に違反して横断禁止地域を敢えて横断したウタの過失は重過失というべきである。
2 ウタの重過失は本件事故の直接の原因となつているから当然に過失相殺されるべきである。その過失の割合はウタ八対訴外緒形二と思料する。
(二) 損害の填補および充当
被告は次のとおり合計五〇万四、九一〇円の支払いをしたので、右額および自賠責保険より原告らが受領した二、六一七、七四〇円は葬儀費用、治療費、慰藉料の順序に充当さるべきである。
1 秋田外科入院治療名下 金 九万八、一五〇円
2 死体検案書交付代名下 金二〇〇円
3 葬儀代名下 金一五万円(東京築地本願寺)
4 右同 金二二万八、六〇〇円(葬儀店に対して)
5 右同 金 六、五〇〇円
(葬車運転者、火夫お礼)
6 右同 金 六、六〇〇円
(お席料、茶代)
7 右同 金 一万五、〇〇〇円(花代)
第五、抗弁事実に対する原告の認否
被告から金五〇万四、九一〇円を支払われたことは認める。
第六、証拠関係は本件記録中証拠目録記載のとおりであるので、これを引用する。
理由
一請求原因第一項(一)ないし(四)は当事者間に争いがなく、<証拠略>によればウタは本件事故による頭蓋内損傷および骨盤大腿の骨折により昭和四三年二月九日午前七時二〇頃死亡したことが認められる。請求の原因第二項(一)は当事者間に争いがない。従つて、被告は自賠法第三条に基づき原告らの損害を賠償すべき義務がある。
二<証拠略>を総合すれば次の事実が認められる。
(一)本件道路(以下A道路という)は、八王子方面より新宿に至る甲州街道で、車道幅員16.8米その両側に約4.0米の歩道のあるアスファルト舗装されている道路で、直線であり道路西側に四〇〇Wの水銀灯が約六〇米おきに点灯されていたので、道路上の見透しは良く、約五〇米先の路上の障害物は発見し得る。最高制限速度は時速五〇粁までとされている。
(二) 事故現場は、右道路と幅員約4.25米の下高井戸駅に至る道路(以下B道路という)が丁字型に交差する交差点附近のA道路上であり、信号機の設置はなく、右交差点の近くのA道路南側新宿寄りの歩道上および北側八王子寄りの歩道上に歩行者横断禁止の標識が設置されており、A道路の両側の各歩道の境にはガードネットが設置されている。(右ネットは所々切れているところもある。)右交差点の約八〇米位八王子寄りに横断歩道橋が設置されている。
(三) 訴外緒形は被告車を運転しA道路の左側第二通行区分帯を八王子方面から新宿方面に向い時速約六〇粁で進行中、事故地点より約五〇〜六〇米手前で対向車のライトに一瞬眩惑されたが、そのままの速度で進み、事故地点より約二〇米手前で、センターライン附近から右から左に小走りに横断中の三人の歩行者を発見し、同時に急ブレーキをかけたが、三人のうちの最後に渡つていたウタに被告車前部左ライト附近を激突させた。
(四) ウタは、訴外浦田数利、同浦田春子と共に本件交差点より約三〇米位離れたB道路沿いにある原告光信方より出て、B道路を通り本件交差点にいたり、左方約八〇米のところの歩道橋のところに自動車が止つていたので横断しても安全と思い、新宿方面に向うタクシーを止める目的で三人一緒にA道路をやや斜めに横断しはじめた。センターライン附近で右数利は左方二〇〜三〇米先に来た被告車に対し右手をあげながら小走りで横断し、ふりかえつたときに、最後に来たウタが被告車に衝突された。
右認定事実によれば、訴外緒形には法定の最高速度を超過し、かつ対向車のライトに眩惑された場合、直ちに減速又は停止すべき注意義務に違反した過失があり、ウタには夜間でも交通量の多く、横断禁止となつており、約八〇米の距離のところに横断歩道橋の設置されている所を、左右の安全を十分確認することなく横断した過失が認められ、両者の過失の割合は概ね訴外緒形四、ウタ六と認められる。
三(一)逸失利益の請求について
<証拠略>によれば、ウタは事故当時六四才の無職の家庭婦人であつたことが認められる。
家事労働を行う婦人の死亡による逸失利益の算定をなし得るためには、家事労働が経済的に評価が可能でなければならない。そしていかなるときが経済的に評価可能な場合に当るかは具体的事情によつて異るというべきであるが、主婦の死亡によりその後家事手伝人を雇つたとき、あるいは、主婦が内職をしていた場合、又は内職をする予定があるとき、あるいは少くとも主婦が家事労働以外の賃金を得る一般的労働を行い得る程度の年令にあること等の諸事情がある場合に限られると解すべきである。そして家事労働以外の一般的な労働を行いえる程度の年令はおおむね六〇才に達するまでと考えられるので、同年令を超える婦人の家事労働はたとえこれ以前のものと形の上では変るところがなくても、経済的評価可能性という点では質的に変化があるものと考えられる。<証拠略>によれば、次の事実が認められる。
ウタは事故前夫の原告藤松と共に東京都杉並区和泉町五〇三番地高井荘に居住していた。その余の原告らはいずれもウタの子であつたがそれぞれ成年に達し、原告富士暁は福岡県、同美智子は大阪市に独立し世帯を持つていた。その他の原告らは皆東京都内に居住し、原告ヤエノと同秀子が同一世帯にいた外それぞれ独立し別世帯を持つていた。ウタは事故前健康で、藤松との家庭の炊事洗濯縫い物といつた家事を行なつていたほか、原告宮子の夫婦がウタと同一アパート内の別室に居住していたため、同原告らの家事を手伝うこともあり、食事も右原告らと共にすることもあり、別に内職は行つていなかつた。
右認定事実によれば、ウタの家事労働はもはや経済的に評価できない程度のものであつたというべきで、逸失利益の請求は認めることができない。ただ、この家事労働により最もサービスを得ていたと認められる夫原告藤松につき、これを失つた点を慰藉料の算定において考慮すべき事情に当ると考える。
(二) 原告藤松は夫として、その余の原告らは子として、ウタの死亡により精神的苦痛を受けたことは明らかであるが、これを慰藉すべき慰藉料は右(一)認定の家族構成、藤松においては家事労働のサービスを失つた点、および二に認定した事故の態様、ウタの過失等すべての事情を斟酌し、原告藤松において五〇万円、その余の原告らは各七万円をもつて相当とする。
(三) 治療費等
原告藤松が本件事故によるウタの入院のため秋田外科入院治療費として九八、一五〇円、死体検案書交付代として二〇〇円、合計九八、三五〇円(被告の弁済として主張したもの)の損害を蒙つたことは当事者間に争いがない。原告主張の病院その他への御礼一三、〇〇〇円についてこれを認めるに足る証拠はない。
(四) 葬儀費用等
(イ) 原告藤松は葬儀費用の一部四〇六、七六〇円(被告において支払つた分)を要したことは当事者間に争いがなく、この外に<証拠略>によれば葬儀費用、交通費、雑費として九四、三八八円を支払つたことが認められる。
(ロ) <証拠略>によれば原告護はウタの初盆の費用として交通費その他の費用合計一九万円を超える費用を出捐したこと、ウタの子供の大半が東京にいるので墓地を八王子の梅洞霊園に浦田家の墓碑を建設し、その費用として使用料、一ケ年の管理料として七九、一〇〇円、墓石費用その他建設費用として四三万円を要した(内三四万円は昭和四四年七月末日に支払うべき債務がある)ことが認められる。
(ハ) しかしながら、右初盆のための費用は本件事故との相当因果関係は認めることはできない。葬儀費用(葬儀のための雑費、交通費を含む)については、右出費のうちウタの社会的地位、身分、境遇等からみて一定額の範囲内においてのみ相当因果関係が認められると解され、さらに墓碑建設費用については、右認定のとおり右墓地は浦田家のものであり、ウタ一人のためのものでもなく、将来浦田家のためにも使用さるべき利益が残存しているものであり、支払金額の全額を本件事故と相当因果関係のある損害とはとうてい認め難いところで、ウタの年令、境遇、家族構成、社会的地位等諸般の事情に照らし、相当性のある金額を決定すべきところ、弁論の全趣旨によれば、葬儀は主として被告においてとりしきり、費用の大部分は被告より直接東京築地本願寺、葬儀店に支払われたものであることが認められるので、この事情も併せ考慮し、葬儀費、墓碑建設費として相当因果関係のあるものは総額四〇万円と認めるのが相当である。以上のとおり葬儀費、墓碑建設費は一体として相当性を判断すべきものと考えるが、本件においては原告藤松において葬儀費を、同護において墓碑建設費を請求しているので、これを分ければ、原告藤松について三〇万円、同護について一〇万円と認められる。
(五) 従つて、原告藤松の慰藉料以外の損害は(三)の九八、三五〇円、(四)の三〇万円の合計三九八、三五〇円となるところ、前認定のウタの過失を斟酌すれば一五九、三四〇円となり、原告護の右(四)の損害一〇万円にウタの過失を斟酌すれば四万円となる。
(六) よつて、原告藤松の慰藉料を含む全損害は六五九、三四〇円、同護の慰藉料を含む全損害は一一万円、その余のすべての原告らの慰藉料は各七万円であるところ、原告らは被告より葬儀費、治療費等として五〇四、九一〇円を支払われ、自賠責保険より総額二、六一七、七四〇円を受領したこと当事者間に争いがないので、これらは右原告らの損害に充当されたものというべく、従つて原告らすべての損害はすでに填補されていることが明らかである。以上のとおり原告らのすべての損害が填補されているのであるから、本件訴訟提起のために要した弁護士費用を被告に賠償を求めることはできない。
四よつて、原告らの本訴請求はすべて失当として、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(荒井真治)